「来月の広告予算を、どの媒体にいくら配分するか」。複数の媒体に出稿していると、毎月この判断が必要になります。
管理画面のCPAが安い媒体に予算を寄せる、という決め方がよく使われます。しかし、管理画面のコンバージョンが、そのまま売上につながる顧客とは限りません。
本記事では、広告予算の配分を決めるときに見る指標と、その出し方を解説します。
そのうえで、デモ用のデータを使い、管理画面のCPAと有料顧客のCACで媒体の順位が入れ替わる例と、広告費を増やした分の「追加のCAC」で増額の余地を判断する方法を紹介します。広告費と課金のデータをClaudeで集計する方法と、注意点もあわせて解説します。
広告予算の配分でよくある決め方と、その問題
管理画面のCPAで比べる
各媒体の管理画面で、CPA(コンバージョン1件あたりの費用)を比べ、安い媒体に予算を寄せる方法です。すぐに数字が出るため、多くの現場で使われています。
ただし、管理画面のコンバージョンは、資料請求や無料トライアルの開始など、売上の手前の行動であることがほとんどです。媒体によって、その後に契約や有料に転換する割合が大きく違う場合、CPAが安い媒体ほど顧客の獲得が高くつく、ということが起こります。
また、媒体ごとにコンバージョンの数え方(計測の期間や、どの接点に計上するか)が違うため、管理画面の数字を横に並べても、同じ物差しにはなりません。
前月の配分をそのまま引き継ぐ
前月の配分を基本に、少しずつ調整する方法です。大きな失敗は起きにくい一方、成果の悪い媒体に予算が残り続けることがあります。
平均のCPAやCACだけで比べる
平均のCACが安い媒体でも、広告費を増やすと、配信の対象が広がって獲得の効率が下がることがあります。増額を決めるときに知りたいのは、平均ではなく「あと1万円増やしたときに、何人増えるか」です。
配分を決めるときに見る指標
有料顧客のCAC
CAC(顧客獲得単価)は、広告費を、その媒体から来た有料の顧客数で割ったものです。管理画面のコンバージョンではなく、請求や受注のデータで数えた顧客を分母にします。
CACの計算方法と、広告費だけのCACとフルCACの違いは、「CAC回収期間の計算方法(別タブで開く)」で解説しています。
LTVとLTV/CAC
LTV(顧客生涯価値)は、1人の顧客から得られる粗利の累計です。CACがLTVを下回っていれば、広告費は回収できます。
LTV/CACが1を下回る媒体は、獲得するほど赤字になります。LTVの計算方法は「LTVの計算方法(別タブで開く)」で解説しています。
追加のCAC(限界CAC)
追加のCACは、広告費を増やした分だけで計算したCACです。
追加のCAC =(増やした後の広告費 − 増やす前の広告費)÷(増やした後の顧客数 − 増やす前の顧客数)
平均のCACには、獲得しやすい顧客の分も含まれています。広告費を増やすときは、平均よりも追加のCACで判断します。追加のCACがLTVを下回っていれば、増額しても回収できる見込みがあります。
実際に広告費を増やしたことがなくても、週ごとの広告費にはばらつきがあります。広告費が多い週と少ない週の顧客数を比べれば、追加のCACの目安を出せます。
デモ用のデータで媒体を比べる
ここからは、架空の動画学習のサブスクリプションサービス「Lumina」のデモ用のデータで、5つの媒体の12か月分(2025年5月〜2026年4月)を比べた例を紹介します。
無料トライアル(14日間)から有料に転換するサービスで、管理画面のコンバージョンはトライアルの開始です。
管理画面のCPAと、有料顧客のCACで順位が入れ替わる
各媒体の広告費、管理画面のコンバージョン(トライアル)、請求データの有料顧客を並べ、トライアルCPAとCACを計算しました。

Claudeで作成した、媒体別のトライアルCPAと有料顧客のCAC(デモ用のデータ)
トライアルCPAで最も安いのはTikTok広告(2,600円)ですが、有料顧客のCACでは5媒体で最も高い約64,000円です。トライアルは多く集まるものの、有料に転換する人が少ないためです。
一方、Google広告とMeta広告は、トライアルCPAでは2〜3位ですが、CACは約1万円で、LTV/CACは3前後です。
広告費の76%を、LTV/CACが1を下回る3媒体(Yahoo!広告・TikTok広告・X広告)に使っていますが、そこから来た有料顧客は広告経由の35%です。管理画面のCPAで配分を決めていると、この偏りに気づけません。
広告費の多い週と少ない週で、追加のCACを出す
次に、週ごとの広告費と、その週にトライアルを始めて有料に転換した顧客数を並べ、広告費の低い週・中くらいの週・高い週に3等分してCACを比べました。

Claudeで作成した、週の広告費の水準別のCACと追加のCAC(デモ用のデータ)
Google広告は、広告費が低い週のCACが8,800円、高い週が9,700円で、広告費が多い週ほどCACがやや上がっています。増やした分だけで計算した追加のCACは11,200円で、平均のCAC(10,100円)より高くなります。
それでも、LTV(36か月の粗利、31,900円)を大きく下回っています。そのため、Google広告は増額を試す余地があります。Meta広告も同じ傾向で、追加のCACは10,900円です。
Yahoo!広告・TikTok広告・X広告は、どの水準の週でもCACがLTVを上回っています。広告費を増やしすぎて効率が落ちているのではなく、そもそも有料に転換する顧客が少ないことが原因です。減額するか、ターゲティングやLPを見直す対象になります。
配分を変えるときの進め方
この結果から、Yahoo!広告・TikTok広告・X広告の予算を減らし、Google広告・Meta広告に回す、という方向が考えられます。ただし、一度に大きく動かすのはおすすめしません。
- 観測した範囲から少しずつ増やす:追加のCACがわかるのは、これまでに出した広告費の範囲までです。Google広告では、高い週でも週25万円ほどでした。それを超えて増やした場合に同じCACが続くとは限らないため、2〜3割ずつ増やし、追加のCACを確かめながら進めます
- 減らす媒体は、役割を確かめてから減らす:認知を広げる役割の媒体は、別の媒体経由の獲得や指名検索に効いている場合があります。減らす前に、指名検索の量や、ほかの媒体のCACへの影響を見られるようにしておきます
- 判断の期間を決めておく:有料に転換するまでの期間(今回は14日間)が過ぎないと、CACは確定しません。配分を変えたら、転換の期間を含めて数週間は様子を見ます
Claudeで予算配分の判断材料を集計する方法
媒体別のCACと追加のCACは、広告費と、請求や受注のデータを突き合わせれば計算できます。データをBigQueryなどにまとめておけば、Claudeに依頼して集計できます。
必要なデータ
- 媒体別・日別の広告費:各媒体の管理画面のデータ。複数の媒体のデータをまとめる方法は「広告の媒体横断分析をAIで行う方法(別タブで開く)」で解説しています
- 顧客ごとの流入元:どの媒体から来た顧客か(最初の接点など)
- 有料への転換・契約のデータ:転換した日、プラン、金額、解約した日
前提として渡すこと
数え方を決めないまま依頼すると、Claudeが管理画面のコンバージョンを顧客数として扱うことがあります。依頼の前に、定義を渡しておきます。
前提の例
・CACは、広告費 ÷ その媒体から来た有料の顧客数。管理画面のコンバージョンは使わない
・流入元は customers テーブルの first_source(最初の接点)を使う
・LTVは、36か月の粗利の累計。粗利率は70%とする
・直近14日間に始めたトライアルは、有料への転換が確定していないため、CACの計算から除く
指示の例
プロンプト例
直近12か月について、媒体別の広告費、管理画面のコンバージョン、有料の顧客数、トライアルCPA、CAC、LTV/CACを表にしてください。トライアルCPAとCACのそれぞれで媒体の順位を付けてください。
プロンプト例
媒体ごとに、週ごとの広告費と、その週にトライアルを始めて有料に転換した顧客数を並べてください。広告費で週を3等分し、水準ごとのCACと、低い週から高い週への追加のCACを計算してください。
プロンプト例
Yahoo!広告の予算を2割減らし、その分をGoogle広告に回した場合の、有料顧客数の増減を試算してください。Google広告は追加のCACで、Yahoo!広告は平均のCACで計算し、観測した広告費の範囲を超える部分があれば指摘してください。
結果を確かめる
- 合計が合っているか:媒体別の広告費の合計が、管理画面や請求の合計と一致するかを確かめます
- 人数が少なすぎないか:週ごとの有料顧客が数人の媒体では、水準別のCACが大きくぶれます。期間を延ばすか、月単位で比べます
- ほかの要因が混ざっていないか:広告費の多い週が、セールや季節の繁忙期と重なっていると、追加のCACが実際より良く見えます
広告予算の配分を決めるときの注意点
アトリビューションのずれ
流入元を「最初の接点」で数えるか「最後の接点」で数えるかで、媒体ごとの顧客数は変わります。認知の役割を持つ媒体は、最後の接点で数えると過小に評価されがちです。
どちらで数えたかを決め、配分の判断に使う間は変えないようにします。
追加のCACは推定である
週ごとの広告費の差から出した追加のCACは、あくまで目安です。広告費の多い週に、ほかの施策や季節の影響が重なっていれば、結果はずれます。
確かめたい場合は、特定の地域や期間だけ予算を変えて、変えていない部分と比べる方法もあります。
媒体の学習への影響
自動入札を使っている媒体では、予算を大きく変えると、配信が安定するまでの期間が必要になることがあります。予算の変更は段階的に行い、変えた直後の数字だけで判断しないようにします。
まとめ
広告予算の配分は、管理画面のCPAではなく、有料顧客のCACとLTVで比べて決めます。今回のデモ用のデータでは、トライアルCPAが最も安い媒体が、CACでは最も高い媒体でした。
- 比べる指標:媒体別のCACとLTV/CAC
- 増額の判断:平均のCACではなく、広告費を増やした分の追加のCAC
- 進め方:観測した範囲から少しずつ動かし、転換の期間を含めて結果を確かめる
広告費と請求のデータをまとめておけば、これらの集計はClaudeに任せられます。毎月の配分の見直しを、同じ物差しで続けられるようにしておくのがおすすめです。




